災害時の値上げは悪なのか?それとも合理性なのか?それとも……

今、読んでる本で誰かに話してみたくなる面白いモノを見つけました。
その名も……

ーーーこれからの「正義」の話をしようーーー   マイケル・サンデル著

この本はアメリカの著名な哲学者 マイケル・サンデル によって書かれた本でして、分類としては哲学書なのにメチャクチャ読みやすいという特徴を持ちます。

議論のテーマも日常的なものから社会問題まであり、哲学を知りたい人には必読の本だと思います。

今回はそんな名著の冒頭から面白い議論を引っ張ってきて、1人論争してみます。

ハリケーン到来!ここぞとばかりに値上げする事業者

2004年フロリダにハリケーンが到来し、多大な経済被害と犠牲者を出しました。
しかし、この出来事の本当の問題はハリケーンが過ぎ去った後に起きます。

なんと、業者がこぞって値上げをしてフロリダの物価が急騰したのです!

一袋2ドルの氷は一袋10ドルとなり、家庭用発電機は250ドルから2000ドルまで跳ね上がりました。
値上げはこれだけに収まらず、ハリケーンで避難した先のモーテルが一晩40ドルから160ドルになったり、屋根から倒木1本どかすのに1万500ドル(円だと100万円を軽く超える)かかったそうで住民にとっては死活問題でした。

当然、この”便乗値上げ”は批判されるのですが、興味深いことにこの値上げを正しいと考える学者も現れ、大きな論争となり、値上げを政府が禁止するかどうかという話になります。

具体的には

便乗値上げ賛成派:
値上げにより価格が上がれば、フロリダでモノを売りたい人が増えて供給が増える。
そうなれば、フロリダは早く復興できる。
市場は自由であり、自由な取引が保証されなければならない。

便乗値上げ反対派:
人の不幸に付け込んだ商売などおかしい。
値上げで当の市民は大きな被害を被る。
そもそも市民は高くても払わなければいけない状況に追い込まれてるから自由な取引ではない。

というのがそれぞれの主張です。

確かに、値上げによって復興が早まれば、社会全体としては良い方向に進み、市場の自由も守られるかもしれない。
一方で、値上げを政府が制限しなければ、住民は苦しむほか、市民は自由に商品を選択しているのではなく、高くても買わざるをえないのだから自由ではない。
よって価格は公正であるべきだ。
というわけですね。

これに対する”正しい答え”と言えるものは結局出てこないのですが、この事件を考えることで色々と面白いモノが見えてきます。
ここからは私の意見を述べてみます。

さっきの議論をあえて単純化するなら、一方は全体の利益と自由を、もう一方は個人の利益と道徳を主張していると言えるでしょう。

ではどちらが大事かと問われれば、どちらも大事だと考えられる。
ということは、問題の本質は「どちらを取るべきか?」ではなく「どうバランスをとるべきか?」と言えるのではないでしょうか?

今回の例であれば
政府は値上げそのものは規制しない、しかし一定以上の値上げは制限するというようなもの
業者が値上げすることは避けられないと受け入れたうえで、住民が困窮しない程度(通常価格の1.5倍までとか)に値上げの額を抑え、無際限な値上げを回避するというわけです。

もし、完全な値上げ禁止なら業者は仕事を渋ったり、ルールの抜け道を探し始める可能性があります。
それでは、復興が大幅に遅れます。
だからあえて管理された範囲で認めるのです。

これは麻薬やギャンブルの話と似ています。
麻薬やギャンブルなどは完全な禁止にしてしまうと、地下化してむしろ取り締まりが難しくなっていきます。
そこで、政府はコントロールできる範囲でこれらを公認することで、妥協するのです。

それと同じようなことをハリケーンでもやろうということですね。

しかし、実はこの考え方にも大きな問題点があります。

まず1つに、政策が中途半端に終わって業者と住民双方の恨みを買う可能性があること
2つ目に、誰がどうやってその妥協点を決めるのかという問題

特に1つ目は深刻で、政策に対する不満の記憶が将来的に政府そのものへの不信へとつながりかねません。

では、一体どうすればいいのでしょうか?

正直そんな答えが見つかってれば苦労はしないのですが、あえて希望を述べるとしたらそれは

共通のストーリー

にあると考えています。

世の中のあらゆるものにストーリーが隠れています。
お金はただの紙なのに、リンゴと交換できるのは、「お金には価値がある」というストーリーをみんなが信じているからです。
国家がなぜ成立しているかと言えば、「こうやってこの国はできて、自分はその一部だ」というストーリーが共有されているからです。

ならば、究極的には

「値上げはある程度まで許容した方がいい」というストーリーを全員が信じていれば、不満はありつつも妥協はするという状態を作れます。

いかに、できるだけ多くの人間が納得できるストーリーを作り上げるか?
これは民主主義の根本的テーマであると同時に、人類が何度もぶつかってきた問題です。

もしかしたら、ハリケーンでの値上げという事態も最後には、どうやったらみんなが納得できるか?という議論に終着するのかもしれません。

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